08年2月。僕は生まれて初めて訪れたアンコールワットの、トイレにいた。アンコールワットの中には入っていない。腹痛がひどく、歩けなくなったからだ。発展途上国に行けば下痢になるのは当たり前と良く聞く。水が合わないだとか、食べ物が合わないだとか、理由は様々だろう。しかし、今回の腹痛は、明らかに普通ではなかった。僕は思ったのだ。お腹の中に、何かがいると。

お腹の中にいたのは、アメーバだった。病名はアメーバ赤痢。まさか自分が生きているうちに赤痢になるとは思ってもいなかった。生まれて初めての入院が、カンボジアだとも、思ってもいなかった。抗生物質を打てば治りますとか医者は笑いながら言っているけど、正直不安だった。なんたって、赤痢は一応致死率14%なのだから。赤痢の潜伏期間は、およそ5日間。5日前と言えば、ちょうどカンボジアのド田舎で井戸掘りをして、「お礼に」と、村人に採れたてのハツを勧められた日だった。あの時ハツを食わなきゃよかったなあと後悔しつつも、僕は病室に入った。

僕の不安を余所に、病室の中は素晴らしい設備で充実していた。完全個室で、バストイレ付き。大型液晶テレビもあれば、食事は中華・和食・洋食選び放題。さすが1泊11万円の、外国人観光客用の病院だ。コーラが1本30円の国でその値段だから、日本の病院より全然素晴らしい。さっきまでの不安は全て無くなった。ちょっとくらい下痢しても、手の甲が痛くても、これほど素晴らしい設備でまったりしていられるならそれで充分。たっぷりとリラックスしたおかげで、僕は一泊の入院でほぼ完治。無事帰国する事ができた。ちなみにお金は、全額保険で下りたので心配はいらない。

もしあなたがカンボジアに行った時「お金が無いけれど、ちょっとゼイタクしたい」と思ったら、ド田舎でハツを食べよう。そうすれば、素晴らしい設備の病院でラグジュアリーな体験ができる。もちろん、海外旅行保険に入るのには忘れずに。あ、あとハツは帰国ギリギリに食べてはいけない。日本で赤痢を発症すると、保健所から戦車みたいなのがやってきて、白い防護服を着た人たちに家中完全消毒されるらしい。あしからず。

(2009/5)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>